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転職したくなったら(その5)〜まとめに代えて〜

冒頭でも述べた様に,私の転職が成功したのかどうかはまだ分からない。大学院を出て10年余り勤めた企業生活は成功だったのかどうか。長く居すぎた感もある。教育や研究の分野に行くなら,10年のキャリアは,少なくとも金銭的にはソンだった。

お金にばかり価値を置いてもしょうがないが,かと言ってそれから逃れられるものでもない。清貧に生きることも必要だが,残念ながら「衣食住足りて礼節を知る」と言う面はある。経済的独立が精神的独立を担保する面はある。

全く誰からも束縛されない自由を持つと言う経済力はどのくらいのものか。夜も寝ずに仕事をしてようやく生活できるようでは,まともに人間的な思考の余裕も無いだろうし,家庭や子供を持っても上手く行かないだろう。「忙」という字は,心を亡くすと書く。人間の営みに関して言えば漢字が出来あがった時代も今も大差無いようである。

より収入を得ようとすれば,忙しくなり精神的自由からは遠ざかる。しかし,金銭的に窮すれば,人間卑しくなってしまう。両者持ちつ持たれつ。いわば相互作用がある。収入を得る事と精神的な自由とは独立ではないし,両立しない。極論を言えば,全くのニートやフリーターの方がむしろその精神的自由を持っているかも知れない。ただ,それで如何に社会人としてやって行くかだ。働くというのは,「はた(周りの人達)」を「らく」にする事だと言う。はたを楽にする仕事ならば,かりに精神的不自由が多少あっても,働きがいはあるはずだ。

金を得るだけならば,どんな仕事でもある。極端な事を言ってしまえば犯罪だってある。振り込め詐欺。上手く演技をして黙っていたってお年寄りの方からお金を送ってくれるのだから,ある意味こんなに上手い儲け話は無い。

就職しだした頃,「この電子機器を苦労して作って,世の中にどれだけの益があるだろうか?」などと真剣に考えていた。素子やさらにその素材に至れば尚の事,巡り目って幸せの為に使われるかも知れないし,良いものを作れば作る程,人を殺す兵器にだって使われる可能性がある。これは科学や技術の本質にまで関わる問題だ。もちろん,そんなことはいちいち考えないで,目の前の仕事を上手くこなすのが賢いのだが,私はそれが出来なかった。微妙なものもある。優れたゲーム機を作れば間違いなく儲かる。現在ならスマホのアプリやネット上の仕掛けだ。もちろんこれは完全にシロだ。しかし,社会にどれほどの貢献をしているのかどうかを考えたら微妙ではないか。

純粋に人の役に立つ仕事なら農業しか無い。しかし,職業としての農業の大変さはご承知の通りだ。やはり仕事に悩んで,上司から,「君は農業しか出来ないのでは」と言われた会社時代の友人の一人はいい歳になって勉強して医学部に入り直し,医者になった。結婚もし,良い歳の様だから子供は出来ないかも知れないが幸せそうである。

日本人の能力なんてさほど差が無いのだから,ヘンなこだわりを捨てテキパキ仕事をこなす。必要以上に抱え込まず,人にも回す。ふり掛かって来そうならさっと逃げて,うまく実績をアピールする。これが企業内では出世する秘訣だ。よほどの同族企業でなければ,かなりのところまで行ける。

企業の中で働いて行く分には,個を無くすという事も求められるかもしれない。虐め合いの中,生き難いかも知れない。企業時代,高圧釜の中に押込められている様だと感じた事もある。精神的余裕を無くしていたこともあった。「いやだいやだ」と思い込む,マイナス思考は良くないと言うが,面白い経験もした。同僚に非常に口の悪い人間がいた。彼も理工系であったが,大概理系で理屈でモノを考える人間は,物事をストレートに言ってしまうので毒舌家になってしまうことが多い。回りくどく婉曲に言う事が出来ないのだ。そんな彼と飲みながら散々会社の悪口を言い合った事があった。

最初は調子良く,止めども無く会社の悪口を言っていたが,段々ツマラナくなって来た。悪口を言うのに飽きたのだった。何がイヤなのか,徹底して吐き出して見ると良いのだろう。書き出して見るのも良いかも知れない。

立場の違う人に同意を求めても全く話が噛み合わないこともある。「彼,中国に行くのが嫌で会社辞めちゃったよ。かわいそうに〜。」と言っても,「せっかく海外に行けるチャンスがあったのにバカだね〜」と言われて,話が合わず却ってストレスが溜まる事もある。人間は実経験の無い事は分からないのだ。「隣の芝は青く見える」ということもある。

基本的には一旦就いた仕事は続ける方が絶対得だ。明らかなブラック企業でもない限り,肩たたきでも無い限り自分からは辞めないほうが得だ。1年以上勤めていても,自己都合退職では3ヶ月半失業給付は出ない。転職するにしても,そこは計画的に上手く立ち回った方が得だ。組織である企業は,辞める個人の利益など考えてくれない。親にでも頼れるなら別だが,生活基盤そのものの危機になる。

私自身,他に選択肢もあったかもしれないが,本人が「これで良いのだ」と思えるかどうかだけである。誰とて共通だろう。私個人的には例えば,バブルの時代だからと浮かれるという事はしたく無い。マンション価格が上がりそうだとか言って,断っても断ってもしつこく営業電話を掛けて来る企業など,どんな外見が立派な企業でも私は信じない。「はたを楽」にしているとはとても思えない(人の仕事の邪魔をしているだけではないかと思える)からだ。ただ,それであっても,まともに税金を払いそれなりに存続している企業なら認めざるを得ない。企業とは社会に住む生き物。蛇笏と言えども,生き物は尊重すべきなのだ。日本でトップと言われる大学・院を出て,「超」のつく優良企業に勤めたが,入社するなり大変な挫折をした者の相談を受けた。彼にも,「軽はずみに行動せず今の立場を最大限活かして自分の利益最優先に行動せよ」と言っておいた。自分を安売りしないことだ(了)。

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