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経営と制御

経営工学を勉強しているという方から,前回の雑文がご参考になったというコメントをいただきました。

分かりにくいところがあったかも知れませんので,補足します。私が書いた事は,以下の様なことを念頭に置いています。


経済なり,それに立ち向かう経営というのは,そうそう精密にモデル化出来ないものだろうと想像しますので,エンジニアリングの手法はどこまで通用するのかは知りませんが,論理として正確な工学は,大枠において定性的には応用が利くのではないかと考えています(もちろん私は経営工学を知りませんので,さらに実践的な理論を学ばれていることと思います)。


制御工学という学問があります。

工学部で機械や電気,システム工学などを専攻する学生は少なくともその基礎(古典制御)は勉強するはずです。

この学問は,18世紀末のワットの蒸気機関の発明が端緒になっているようです。
機関を実用的に利用しようとすると,機械の速度が負荷によって変動してしまいます。そこで,速くなりすぎるようだと蒸気弁を絞り,遅くなるようだと蒸気弁を開けて,運転速度を一定に保つ様にします。

それを人間がやっていてはかないませんから,自動的な仕掛けでやらせようという事になります。そこでフィードバックという概念が発生し,20世紀に入って数学や電気電子工学の理論と共に完成されます。中心課題は安定性の議論でした。

どんな装置のフィードバックの仕掛けでも,過剰に反応してしまっては,安定に動作しないのです。では反応をどのくらいに調整すればよいか?もうすこし正確に言えば,ゲインとフィードバック量をどう調整すれば,安定に運転させることが出来るか,また速度設定を変化させた時にも安定かつ最適な反応速度で運転できるかどうか。

最初はエンジニアの勘と経験で様々な工夫がされたわけですが,その後の進歩の為には数学を用いた精密な理論が必要だったわけです。現在ではフィードバックの理論はすでに古典制御と呼ばれる体系化された学問になっています。古典と呼ばれるからには,現代制御はもちろんあるわけです。複雑な経済の仕組みを解き明かすには,理想化された条件下でのみ成り立つ古典制御よりも,条件を拡大した現代制御の手法が必要なのかもしれませんが,実は,最先端のロボットなどでさえも,古典制御理論がかなり使われているのです。更に理論がシンプルな分,大枠を見るには適していると言えるでしょう。


実はこの古典制御理論から,何事も過剰な反応をしないことの重要性が結論出来るのです。制御理論をご存じない経営者の方でも,体感的につかんでいる事でしょう。

過剰な反応をしないこと。では過剰かそうでないかはどう分かるのだ?といえば,そこは,定量的な議論が必要なわけです。機械装置の安定性議論から出発した制御工学の歴史が物語っています。

ヒトの雇用の流動化は,安定装置を外した状態だと書いたのは,経営資源の調節を人間がやる以上,必ず間違いや量的多寡の読み違いがあることです。むしろ調節しにくく,あるいは鈍くしておく方が安定なのです。

多少の余剰人員は,変動を吸収するために必要でしょう。タイムラグの量と,ゲイン調整との関係は古典制御の基本です。あるタイムラグのある制御系におて,過剰な反応(高すぎるゲインとフィードバック)をするくらいなら,何もしない方がマシだったという事も十分ありえるのです。

経営を自転車に例えたら怒られるかもしれませんが,すいすい走っている時は何もしないで,ホンのちょっとの修正で良いはずです。自転車に乗れなかった子供の頃を思い出して下さい。倒れそうでコワくて,右に倒れそうだとハンドルを右に,左だと左に過剰に切ることで不安定状態を作っていたのです。身体の反応にはタイムラグがありますから,過剰な反応をしても収める方のタイミングにはなりません。抑制した反応が重要だったのです。自動車だったらどうでしょうか?ハンドルには多少のガタがないと運転しにくくてしようがありません。

ですから,経営資源のヒト・モノ・カネの何もかもフリーハンドになって良い事ばかりでしょうか?むしろそれは,経営者により難しいかじ取りを任せる事を意味します。「自動制御」に任せられない以上,私はヒトくらいはそう簡単にサイン・リサインできない仕組みの方が,経済の安定化には良いのではないかと考えるのです。

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