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JABEE認証の継続は必要か?

JABEE導入の目的の一つに,技術者の地位向上ということが言われました。それは大変結構な事です。今日の日本の繁栄は技術者の努力の上にあったことは間違いありませんし,人以外資源の無い日本が今後食っていくためには,技術者の役割が重要であることは論を待ちません。では,JABEEをやったら,技術者の地位が向上するのでしょうか?


残念ながら,無理筋のように思います。どこにもその脈絡がありません。JABEE認証制度は,技術者の地位向上よりも,エラい先生方やお役人の退職後の地位向上という本音を,立派な大義名分のオブラートに包んでいるように見えます。

JABEEコースを修了する学生にとって唯一有効なインセンティブに見える技術士第一次試験の免除も,技術士制度をいじって,従来経験者が免除されていたものを義務化して作ったものです。

そして,そのような「人工的な恩恵」でさえも,大学はまだしも高専では専攻科まで進む学生か,名目上はJABEE認定大学に編入学した学生にのみ与えられるものです。「名目上」と言うのは,そのような大学編入生においてすら,「学校毎に認定されたJABEEプログラムが違うから,通算はダメよ」と言われたとの情報。正確な実態はどうなのか怖くて聞けません。JABEEは教育の国際水準の確保では無かったのでしょうか?国際水準が確保されても,国内水準は学校によりバラバラなのでしょうか?

デタラメです。それどころか,JABEE委員ご出身のレベルの高い大学では技術士の地位の最も高い建設土木系ですら,JABEEには洟もひっかけないのです。JABEEを言う前に,技術士そのものの地位向上が先決でしょう。それに,みんながみんな技術士を目指す訳ではありません。それを本気で目指す人は一次試験から受ける方がJABEEコースのメンドウな縛りをかいくぐるよりもずっと楽でしょう。


JABEEの初代会長さんをされた方の前職は放送大学学長,その前は日本一の大学の総長さんでした。皇室関係の有識者会議の座長さんなどもやられました。まあそれは結構なことです。関係なさそうなことです。しかしながら    

当職場ではJABEE導入により,それまで放送大学受講で取らせていた単位はJABEE上は無効だとされ,自前開講になりました。大学単位を取らせるには教員が足りないから放送大学の受講で補填していたはずですが,教員の補充もないままの自前開講で,「教育の質の保証」はできるのでしょうか?放送大学の単位がダメな理由は放送大学がJABEE認定を受けてないからだそうです。しかも,その前トップを務められた日本一の大学の主要学科もJABEE認定は受けていないのは繰り返しになります。


最高学府の総長までやられた方が渡り歩いた後がこんなことになっているです。なぜ,前任の長までされた公的機関の制度が有機的につながらないのでしょうか?もっともこれは,ご本人の問題というより,システムの問題なのでしょうが。

第二代の会長さんは,JABEE導入に熱心な私大のご出身の方。まあこれはこれでもっともな人事なのでしょうが,この方も私大の前に長く居られたのは,JABEEにはあまり関係されない,くだんの大学です。


現第三代の会長さんは,「大学評価学位授与機構長」をされた方です。この「独立行政法人・大学評価学位授与機構」というのは一般の方は何をしているところか殆ど知らず,かつては大学の先生でも多くの方は知りませんでした。近年,大学はここの行う「認証評価」という独自の「大学評価」を定期的に受ける義務が発生しましたので,知らずには済まされなくなりました。JABEE受審の方は法的義務は無いのですが,認証評価の受審は法律で義務づけられました。

JABEEを受けているところは,二重の評価になります。他にもよく分からない認証評価機関が存在します。一つの評価受けるだけでも大変なのに,二重・三重にとはどういうことなのでしょうか?もっとも,二つ目以降は共通する事項も多く楽になるようですが,これまた変な話です。一体誰の為の評価なのでしょうか?

一時期,大学が「評価疲れ」と言われました。国立大学等は法人化されると,外部評価にさらされ,大学の独自裁量の自由度が増し,活性化すると言われました。しかし実際のところどうだったでしょうか?残念ながら,ネガティブな答えが出つつあるように見えます。


外部評価への対応は,規模の大きなところも小さなところもその手間は,その規模の差ほどには変わりません。人間の体の検査に例えて言えば,大人も子供も赤ん坊もほぼ同じような医学検査を受けることに相当します。当然被害は屈強な大人ではなくて,小さな子供に出てきます。外部評価を幾つもやられると相対的に小規模なところほどダメージが大きいと言えます。自然淘汰ならば致し方ありませんが,むしろ人為的に緩慢な自殺に追い込まれているように思えます。正当な競争はあってしかるべきです。しかし,相対的により弱いところに足かせを科せるようなやり方が本来の競争と言えるでしょうか?


現在の職場で,はっきりとした競争としてあるとしたら,予算獲得競争です。いつごろからか,研究界でも補助金獲得競争が激しくなりました。独法化前後から特にそうなった感じがします。全体の教育研究予算が減らされる中で,いわゆる競争的研究資金を増やし,その獲得競争をさせる事が研究を活性化させるという考え方です。大学の教授になるにも競争的資金の獲得がモノをいうようになりました。話がズレそうなので元に戻します。


教育研究現場は従来から,外部評価に曝されているのです。入試倍率や出口の進路,論文数やその質などです。むしろ,外部評価されていない形式主義的な公的機関が評価を行っているのが現状の「外部評価」の実態です。これはむしろ,本来の競争を阻んでいるとさえいえるでしょう。評価機関が国民の信託を得ていればまだしも,白紙委任されているような形だと自己肯定の為に細かな評価(ムダな仕事)を始めます。それを監督すべき主権者たる国民も,よくわからないまま「公務員系は気に入らんからいじめてやれ」となっているのでは,子供のいじめと一緒です。

認証機関などの要職に就かれる方は,何十年もメインで勤めた前職場にはそれなりの思い入れはあるでしょう。しかし,その後短期間づつ渡り歩く名誉職的な仕事に,「献身」や「情熱」を求める方がムリというものでしょう。どんな立派な方でも,その気が無くても「無責任」,「やっつけ」にならざるを得ないのではないでしょうか。上で挙げた例を見ただけでもそのことが分かります。


JABEEが叫ばれ出たした頃,企業ではISOが流行っていました。仕事の進め方上有用だからということだったのですが,どうも得意先との付き合いやロゴマークの欲しさが主だったようで,どこでもここでも取るのが当たり前になって,ロゴマークのアリガタさも無くなった。それどころか本業の仕事がやりにくくなった。カネをかけて仕事がやりにくいのではバカバカしいからと,今度は止めるのが普通になったようです。

私が無報酬で関わる一般財団法人でも,ISOでの仕事のやり方はありがたく頂いた上で,認証自体は返上しています。株式会社ではなくても,民間企業的な仕事をして決算をあげている以上,ムダなものにカネは掛けられないのです。カネだけで無く,大量の書類づくりに要するヒトの時間とモノのムダ。認証返上で登録料の負担が無くなった上に,業務の贅肉もスッキリ削減出来たのです。


JABEEは「アカデミック版のISO」と呼ばれたものですが,いわば本家のISOに返上の動きがあるのに,JABEEだけ頑なに継続というのも不思議なものです。認証のための証拠としてだけの,いわば大量のアリバイ資料を作るヒマがあったら,学生との接触の時間を持ったり,研究論文執筆の準備にもというのが本音です。そしてそれは,むしろ正常な姿だと思います。科学技術分野で十全に活躍しなければいけない大事な技術者の教育の場に,誰が得をするのか分からない目的あいまいな足かせをはめる事は,国家的な損失と言わざるを得ません。

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